円形脱毛症は円形の脱毛班が生じる症状が特徴の自己免疫疾患で、脱毛症の中では発生頻度が高い症状です。
最も多い症状は脱毛班が一つの単発型円形か、脱毛班が複数の多発型円形が多いですが、時には全頭脱毛や全身脱毛を引き起こすす場合もあります。
円形脱毛症は人種や性別、年齢にかかわらず発症する自己免疫障害で、男性型および女性型脱毛症に続いて多い脱毛症で、有病率[ 1 ]は世界中で約1000人に1人といわれています。
アメリカでは生涯における発症リスクは1.7%といわれており100人中に約2人が生涯のある地点で脱毛症を発症していることになります。
また、初診時の60%の患者は20歳未満だそうですが、年齢・性別にかかわらず発症する可能性があります。[ 2 ]
脱毛の範囲や形は、頭やひげ、まつげなどの一部の脱毛から全身のすべての毛が脱毛する「汎発型」まで様々な形をとることがあり、頭部の症状としては「単発型」「多発型」「全頭型」「蛇行型」の4つに分類でき[ 3 ]その中で、円形の脱毛斑(だつもうはん)が複数できる「多発型」と、円形の脱毛斑が1つの「単発型」は、どちらも通常型の円形脱毛症に分類されており最も一般的なタイプです。
通常型の円形脱毛症では「単発型」と「多発型」の脱毛症があります。
一か所が丸く脱毛する「単発型」の円形脱毛症が一般的ですが、複数にわたり脱毛することで多発型になります。
単発型の場合は、狭い範囲での脱毛であれば自然に回復る場合も多いのですが、脱毛の範囲が広くなるにつれて回復しにくくなり、多発型も同じで、狭い範囲での脱毛であれば、広い範囲の単発型より回復しやすい傾向にありますが、範囲が広がるにつれて回復しにくくなります。
また、髪の脱毛にあわせて、手と足の指の爪に小さなくぼみやそれが横に繋がり戦のようになるなどの変化が起こることがあり、そういった爪の変化も脱毛症の症状の一つです。
(ピンポイントのへこみが現れる・白い斑点と線が現れる・爪が荒れる・爪のツヤがなくなる・爪が薄くなる)
脱毛班がつながり、帯状で髪の毛が抜け落ちてしまう状態
脱毛の範囲が徐々に広がり最終的に頭の髪の毛がすべて抜け落ちてしまう状態
全頭型からさらに進行し、全身の毛がすべて抜け落ちてしまう状態
アメリカの円形脱毛症の治験評価 ガイドラインでは頭皮を大きく4つに分割し、脱毛症の領域が頭皮に占める割合で症状の状態を判別する基準があります。
[su_table]
症状 | 状態 |
---|---|
S0 | 脱毛がみられない |
S1 | 脱毛巣が頭部全体の 25%未満 |
S2 | 脱毛巣が 25~49% |
S3 | 脱毛巣が 50~74% |
S4 | 脱毛巣が 75~99% |
S5 | 100%(全頭)脱毛 |
[/su_table]
円形脱毛症の原因については過去に様々な説が言われてきましたが、現在も完全には解明されておらず不明な点も多く残されています。
その中で現在発症の原因とされているのが「自己免疫疾患」で、免疫細胞が毛根細胞を誤って攻撃してしまうことによって脱毛するとされています。
また円形脱毛症の発症に関して、遺伝やアトピーなども関連があるとされており、例えば2001年から2003年に中国で行われたアンケート調査[ 4 ]では、円形脱毛症の発端者の第一度近親者(親子・兄弟)、第二度近親者(祖父・祖母・おじ・おば・おい・めい・孫)、第三度近親者(曾祖父母・大叔父・大叔母・いとこ)における円形脱毛症の有病率は、それぞれ1.6%、0.19%、0.03%だったそうで、シンガポールの研究[ 5 ]では患者の26.6%と第一度近親者の32.3%でアトピーが確認されており、遺伝とアトピーについてそれぞれ円形脱毛症との関係性が報告されています。
前提として、現時点では円形脱毛症の治療や予防に直接効果的な治療方法はなく、現状行われている治療は主に病気の活動を抑制するための治療になっています。
1958年以来ステロイド局所注射療法が円形脱毛症の治療に使用されており、現在の円形脱毛症における第一選択薬としても挙げられ、日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版でも以下のように記載されています。
[su_quote cite=”日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版” url=”https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AA_GL2017.pdf”]ステロイド局注療法は病状が固定した S1 の単発型および多発型の成人例に第一選択として行う治療である.推奨度が高くかつ外来診療の場で安全に行える治療である[/su_quote]
局所免疫療法は人為的に頭皮に皮膚炎を発生させることで発毛を促す治療方法で、脱毛エリアが頭部の半分をこえる重度の円形脱毛症の場合には最も効果的な治療方法として挙げられます。
ミノキシジル外用薬は、二重盲検プラセボ対照試験で1日2回、3%ミノキシジルを使用する有効性が認められています。
しかし、日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版では次のように記載されており、単発型および多発型の併用療法の 1つとして行ってもよいとなっています。
[su_quote cite=”日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版” url=”https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AA_GL2017.pdf”]ミノキシジルの有用性は現段階では十分に実証されていない.しかし海外における診療実績も考慮し,委員会での検討結果,単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい.[/su_quote]
紫外線A療法は、良好な研究結果とそうではない研究結果が報告されていることもあり、有益性が現段階では十分に実証されていない。
また、紫外線A療法によるPUVA誘発性皮膚がんの可能性も懸念しなければいけません。
シクロスポリンなどによる免疫抑制剤は、再発率が高く吐き気、嘔吐、頭痛、発熱、発疹などの副作用があることと、症例集積研究での評価が一定ではないことにくわえ、発毛促進効果を評価するためのランダム化比較試験は行われていないため、日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版では現時点で日常診療においては行わないほうがいいと記載されています。
クエン酸トファシチニブは、程度から重度の関節リウマチの治療のために2012年後半にアメリカ食品医薬品局によって承認された低分子選択性Janusキナーゼ1/3(JAK 1/3)阻害剤です。
トファシチニブで8か月間治療した後にすべての体の部位で完全に発毛したという結果もあるそうですが、十分に有用性がに実証されていない点と、副作用で結核、貧血、好中球減少症、頭痛、軽度の吐き気などの重篤な感染症のリスクの増加がある点は注意が必要です。
医療用ウィッグは外見の変化による精神的な負担を軽減し、円滑な治療を行えることを目的としたウィッグのことで、一般的にはJIS(日本工業規格9623)に適合した安全面においての品質をクリアしたウィッグのことを指します。
その他に漢方薬療法や催眠療法、心理療法や鍼灸治療などもありますが、これらについては十分に有用性が実証されていないため、日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版ではこれらの治療について推奨されていません。